多くの自治会・町内会が高齢化や役員の担い手不足などの課題を抱えている中、横浜市のBrillia(ブリリア) City横浜磯子自治会では、中高生からシニアまで多世代の方が役員として活躍する画期的な組織運営・コミュニティづくりを実現している。
そこにはCRファクトリーの「コミュニティマネジメント」の考え方やノウハウが大いに取り入れられていて、自治会長の田形勇輔さんと中学生役員(当時)の鈴木梨里子さんが「コミュニティマネジメント塾」に通い始めたことが大きなきっかけとなった。
「コミュニティマネジメント塾」で何を学び、それをどう自治会運営に取り入れていったのか?Brillia City横浜磯子自治会がコミュニティマネジメントを導入・運用して、活気あふれる自治会になったリアルなダイナミズムを紐解いていきたい。
●当初感じていた課題感
●コミュニティマネジメント塾に入ろうと思ったきっかけ
●コミュニティマネジメント塾で学んだこと
●コミュニティマネジメント塾での学びをどう活かしたのか?
●どんなコミュニティ(自治会)になったのか?
Brillia City横浜磯子自治会の紹介
神奈川県横浜市のBrillia City 横浜磯子自治会は、全13棟からなる総住戸数1,230戸の大規模マンションの住民3,300人によって構成されている。マンションの共用部を管理する管理組合とは別に、住民相互の親睦、福祉、防犯・防災面の充実を目的として2017年に設立された。その活動は、防災訓練、防犯パトロール、小学生の下校見守りなど地域の安全を支える運動に加え、ラジオ体操、シニア向けサロン、お祭りなどの幅広い世代を対象にしたイベントも展開している。
当初感じていた課題感
設立当初は、同自治会も多くの自治会・町内会と同じような悩みを抱えていた。役員のやらされ感や仕事の負担感が強く、担い手が不足し、高齢の役員ばかりが奮闘していた。活動に対する役員間の温度差や方向性の違いから、活動計画の合意形成が難航することも少なくなかった。また、人的体制の強化を目的に班長の新設を検討したが、住民の賛同は得られず。結果として、3,300人規模の自治会の活動を、わずか15人の役員で支える形でのスタートとなった。
コミュニティマネジメント塾に入ろうと思ったきっかけ
田形さんが「コミュニティマネジメント塾」に入ろうと思ったきっかけは、自治会の役員を頼まれたことから始まる。世の中の多くの自治会・町内会があまりうまくいっていないと言われる昨今、「何か良い方法はないのだろうか?」と探していたときCRファクトリーと出逢った。
初めてCRファクトリーの単発のセミナーに参加したときに、コミュニティマネジメントの考え方に強く感銘を受けて、「この方法だったら良いコミュニティをつくれるのではないか」とわくわくして、急いで学びをまとめていった。そして、本格的に学んで自治会運営に活かそうと「コミュニティマネジメント塾」に入塾することを決める。
コミュニティマネジメント塾で学んだこと
その1:「人はコストをかけた分だけ愛着が湧く」
まず田形さんが感銘を受けたのが、「人はコストをかけた分だけ愛着が湧く」というコミュニティマネジメントの基本原則。当時、自治会のお祭りのバーベキューを担当していたときに、夏の暑い中でも炭火の前に立ち汗をかきながらお肉を焼いている人たちが、イキイキした表情で「来年もやりたい」と言っていることとつながった。
「住民の人たちが自分のまちのために費やす時間も汗も苦労も愛着の材料になる」。自治会の仕事を一部の役員だけで抱え込まずに、みんなで時間を使って、みんなで苦労する。その過程を通して、まちへの愛着が生まれる。ここから後に「自治会レボリューション」(下図参照)というモデルの“起点”となる「コスト=時間・汗・苦労」という着想が生まれる。
その2:お金以外の報酬に着目する
次に大切だと感じたのが「お金以外の報酬に着目する」こと。非営利組織はボランタリーなメンバーで構成されていることが多く、金銭的報酬を得ないことが多いがゆえに「お金以外の報酬」が大切になる。自治会はまさにそうだった。
自治会・町内会などの地域活動でたまに聞かれるのが、“義務感”や“やらされ感”で負担を感じるという声。でも、自治会活動やボランティア活動でも楽しいことや喜びはたくさんある。子どもたちや住民の笑顔が見られたり、感謝されたり、みんなで楽しく何かをつくりあげる充実感など。関わる人や運営を担う人が「やって良かった」と思えるような「お金以外の報酬」で組織を満たすことが重要だと感じた。
その3:愛着と関係性を育む
そして「愛着と関係性を育む」のセッションでは、「愛着」がやる気(モチベーション)や成果(パフォーマンス)にとってとても重要であることを学ぶ。「この団体が好きだ」「この仲間と一緒に活動することが楽しい」と思える感覚は、人の気持ちを前向きにさせ、チーム活動の推進力を大きく上げてくれる。
共に汗をかいて苦労しながら良い活動をつくり出し(コスト)、そのお返しに子どもたちや住民たちの笑顔や感謝に触れ(報酬)、その結果として自治会や住民に愛着が湧く(愛着)。愛着が湧いた住民は「また来年もやってみよう!」という気持ちが湧いて来て、翌年の活動にさらなる推進力をもたらす。この循環を創り出すことで自治会に関わる人たちのまちへの愛着が年々育まれ、活気ある自治会をつくっていけるのではないか。ここでBrillia City横浜磯子自治会独自のタウンマネジメント手法「自治会レボリューション」が発案されることになった。
コミュニティマネジメント塾での学びをどう活かしたのか?
「コミュニティマネジメント塾」での学びと、そこで構想した独自のタウンマネジメント手法「自治会レボリューション」をもとに、いよいよ活気あふれる自治会コミュニティづくりが始まる。その具体的な導入方法を見ていきたい。
その1:興味と得意に応じた役割設定
「人はコストをかけた分だけ愛着が湧く」と言っても、ただ仕事を割り当てるだけではやらされ感が先立ってしまう。そのときに工夫したのが「興味と得意に応じた役割設定」をすることだ。「バーベキューで肉を焼くのが好きな人」「防災に熱心な人」「子どもが好きな人」など、役員や住民それぞれの興味と得意を聞き出し、それに応じた役割と出番をコーディネートしていった。(「子どもが好きな人」には「下校時の見守り」をお願いする、など)
その2:関わり方のグラデーション
また、関わり方に“グラデーション(段階・濃淡)”をつけるようにした。企画に対して興味と得意の重なりが大きい方には多く関わってもらい、そこまで重なりが大きくない方にはゆるく関わってもらうなど、「関わり方のグラデーション」を調整することで、それぞれの意向や状況に応じて気持ち良く関わってもらえる工夫を凝らすようにした。
これを中学生役員(当時)の鈴木梨里子さんは「炭水化物」「タンパク質」「ビタミン」という栄養素で表現し図式化した(下図)。「炭水化物」は、自治会運営をなるべく優先して考え動いてくれる中心的な存在。「タンパク質」は、それぞれの都合や時間で関わりながら自治会の仕事をぐいぐい進めてくれる存在。ただし負担が大きくなりすぎないように支える必要有り。「ビタミン」は、何かの時にサポートしてくれる存在。ビタミンの人たちがいることで自治会に楽しさやにぎやかさが出る。そんなふうに「コミュニティマネジメント塾」での学びを実践的に活かしている。
その3:参加者の声を丁寧にフィードバックする(共有する)
自治会役員やボランティアスタッフにとっての「お金以外の報酬」の一つは「参加者の声・住民の声」だと思った田形さんは、お祭りやイベントの参加者にアンケートを取って、その喜びや感謝の声を冊子にして配るようにした。そこには「子供たちのキラキラの笑顔がうれしかった」「はじめましての住民の方とコミュニケーションできたのが楽しかった」「このまちに住んでいて本当によかった」などの役員・スタッフにとってうれしい住民の声が詰まっている。
また、自治会役員同士の相互理解のワークも取り入れるようにした。そこでは、役員それぞれが「私が自治会活動を通して受け取った報酬(お金以外の報酬)」についてスピーチをしてもらう。役員それぞれが何に喜びや充実感を感じるのかをお互いに共有し合うと共に、みんなで創り上げてきた価値の再確認の機会になっている。そうやってみんなが「お金以外の報酬」を認識(再認識)できるように工夫した。
その4:愛着が先、行動・成果は後
田形さんは、楽しさや愛着の重要性を強調する。「お祭りが楽しい」「このまちが好きだ」「この仲間たちと一緒に活動したい」。そんな気持ちが「このまちをもっと良くしていきたい」という貢献意欲を芽生えさせ、清掃活動や防災活動の充実にもつながっていく。役割や仕事や成果を先に持ってくるのではなく、先に「愛着」を醸成する努力・工夫をすると、そこから自然と主体的な関わりや担い手が生まれてくるのだという。
コミュニティマネジメント塾で学んだダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」を引き合いに出して、「まずは関係の質をつくること」の大切さを語ってくれた。「楽しさ」や「愛着」や「関係の質」を高めることで、みんなのやりたい気持ちに火がついて、ボランティアに手を上げてくれたり、自治会役員に立候補してくれるようになる。「愛着を先に育てること」を意識して、ボランティアや役員のやる気や行動を引き出している。
どんなコミュニティ(自治会)になったのか?
CRファクトリーの「コミュニティマネジメント塾」での学びを活かして、さまざまな施策や仕掛けを導入した結果、お祭りのボランティア数は30人から215人まで劇的に増加し、役員立候補者もなんと1人から13人まで増加した。しかも、役員立候補者の中には小学生や中学生もいて、これは全国的に見てもかなりめずらしいことである。
この画期的な自治会コミュニティづくりの取り組みは、多くのテレビや新聞でも取り上げられ、その独自のタウンマネジメント手法について話が聞きたいと講演やワークショップの依頼が殺到している。田形さんは講演やワークショップでも、ここで紹介したようなコミュニティマネジメントの考え方を伝えていて、多くの自治会・町内会や市民活動団体にも広く影響を与えている。
「コミュニティマネジメント」には、これほどに団体・活動・コミュニティを変える力がある。Brillia City横浜磯子自治会の場合は、コミュニティマネジメントの学びを具体的な施策に取り入れて実直に実践したことが大きい。また自分たちなりにカスタマイズして独自のマネジメント手法へと昇華したこともこれだけの変化を生み出した要因だろう。「コミュニティマネジメント」のノウハウが、これだけの大きな変化・成果を生み出した事例を紹介した。これからも多くの団体・リーダーがコミュニティマネジメントを学び、良い団体・活動・コミュニティを生み出していくことを願う。
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◾️インタビュー協力:田形勇輔さん
Brillia City横浜磯子自治会長・横浜BBQ協会上級BBQインストラクター・CRファクトリーコミュニティマネジメント認定インストラクター
大きな肉を塊のまま焼く本格的なBBQスタイルを地域に導入したことがきっかけで、30代で3000人の街の自治会長に就任。夏祭りで多くの住民ボランティアが楽しく汗を流す姿をヒントに、独自のタウンマネジメント手法「自治会レボリューション」を考案。役員の担い手不足に悩む自治会・町内会が多い中、中学生・高校生・大学生の役員が誕生して多様な世代が活躍中。新しい時代にふさわしい自治会・町内会の姿を開拓している。