
はじめに:子育てにおける孤立と「居場所」の必要性
子どもの誕生は多くの人びとに幸福感をもたらす一方で、母親にとっては生活環境の激変を伴い、時として強い孤立感や自己肯定感の低下を招くことがあります。出産は「人生で一番のカルチャーショック」と語る母親もいるほど、女性に大きな混乱やストレスを引き起こすことがあります。
また、「子育ては母親がして当たり前」という社会的な規範が根強く存在し、母親たちが不安や不満を吐露する機会を奪ってしまう現状があります。このような状況下で、家族や職場以外の「第三の居場所」として、地域に根差したNPO法人の役割がかつてなく重要視されています。
神奈川県横浜市戸塚区を拠点とする認定NPO法人こまちぷらすは、「子育てが『まちの力』で豊かになる社会」の実現を目指し、2012年から活動を続けています。同団体は「こまちカフェ」(現在は「こよりどうカフェ」も含めた2店)という居場所を通じて、「対話と出番」の機会を創出してきました。しかし、日々の運営の中で、カフェに持ち込まれる多様な「困った」や「やってみたい」という声に対して、スタッフだけでは対応しきれないという課題に直面していました。
この課題を乗り越え、こまちぷらすが目指すカフェや組織、そしてコミュニティの理想の姿を実現するために、2016年から2018年までの3年間にわたり、強力なタッグを組んだのがNPO法人CRファクトリーです。CRファクトリーがこまちぷらすに3年間かけて伴走支援を実施し、両団体の協働による「3ヵ年研究実践プロジェクト」がスタートしました。

1.コミュニティマネジメントの知見を活用した構造設計
CRファクトリーは、「すべての人が自分の『居場所』と『仲間』を持って心豊かに生きる社会」をビジョンに掲げ、「コミュニティマネジメント」というコミュニティ形成における高度な専門的知見とノウハウを有しています。CRファクトリーのコミュニティマネジメントの知見を活用し、こまちぷらすが目指すカフェや組織やコミュニティの姿を実現するために、さまざまな企画や構造設計、コーディネート人材の育成などに取り組みました。
まず着手したのは、カフェを訪れた一般市民が、いかにして「まちの担い手」へと育っていくのか、そのプロセスを可視化する構造設計でした。関わる人たちの状態を「無関心」「興味」「愛着」「主体」「主体市民(地域で活躍)」の5つのフェーズに分類し、それぞれの段階に応じた「打ち手」を体系的に整理しました。
具体的には、カフェでの飲食やイベント参加を「興味」の入り口とし、次に団体の理念に触れる「パートナー登録説明会」を通じて「愛着」を育む設計としました。さらに、「主体」フェーズへと引き上げるための企画として、パートナー同士が繋がり学ぶ「パートナーぷらす会員交流会」や、明確な「やりたいこと」がなくても役割を持って参加できる軽作業の場「もくもくの会」を立ち上げました。
そして最終的に、地域課題に対して自ら企画立案・実行する「主体市民」を育成する場として、「とつかフューチャーセッション」や「企画の会」を創設しました。このように、CRファクトリーの知見に基づき、多様な入り口から段階的に人の主体性を引き出す緻密な構造が設計されたのです。

2.コミュニティの要となる「コーディネーター」の人材育成
構造設計を実際の現場で機能させるためには、人と人、人と機会をつなぐ「つなぐ人」の存在が不可欠です。そこで、CRファクトリーによる伴走支援の重要な柱として、居場所づくりコーディネーターの人材育成に注力しました。
2016年度は、CRファクトリーが講師となり、1年をかけて2名のコーディネーターを育成しました。研修プログラムは、コーディネーターに必要なスキルを細かく分解し、全10回におよぶ実践的な座学研修として構築されました。研修では、「理念共感のつくり方」や「ファシリテーション力」「面談力」といった基礎スキルに加え、関わる人たちの「動機や報酬を理解する」ための深い人間理解(氷山モデルなどの枠組み)を学びました。
この人材育成の取り組みは、翌2017年度にはこまちぷらすのスタッフ自身が講師となって新たなコーディネーターを育成する形へと進化し、計4名体制でコミュニティを運営する強固な基盤が築かれました。CRファクトリーのノウハウがこまちぷらすの組織内部にしっかりと移植され、自走可能な状態へと昇華された証と言えます。

3.3年間の伴走支援が生んだ「素晴らしい団体・活動」への進化
この3年間の取り組みの結果、理念に共感し共に活動する「こまちパートナー」の登録者は146名にのぼりました(2018年時点)。その中から、「パートナーぷらす会員」として主体的に関わる人が延べ50名、実際に企画に関わった「主体市民」が延べ40名も誕生しました。母親たちが自らの当事者性を活かし、「シングル子育ての会」や「お子さんの発達に不安をもつ方のための会」、「不登校ひきこもりの子をもつ親の会」など、多様なニーズに応える数多くの市民発企画が次々と生まれました。
さらに、この活動の社会的な価値は、早稲田大学の石田光規教授との共同研究によっても実証されました。調査では、ショッピングモール利用者、一般的なカフェ利用者、そしてこまちぷらす参加者の3群を比較分析しました。その結果、こまちぷらすの参加者は他の群と比較して、「自分は独りぼっちだと感じる」といった孤立感が有意に低く、「周りから必要とされている」といった自己肯定感が明確に高いことがデータとして裏付けられました。
この研究により、こまちぷらすが提供する場が、近所にあるから行きやすいといった「物理的アクセス」の良さに加え、適度な距離感で母親たちを受容し共感する「心理的アクセス」を備えていることが立証されました。孤立しがちな子育て期の母親たちが、段階的に社会参加できるメニューを通じて徐々に活力を回復し、自己肯定感を高めていくという、他に類を見ない居場所のモデルがここに完成したのです。

4.モデルの横展開と持続可能な事業性の確立
こまちぷらすとCRファクトリーの挑戦は、自団体の発展だけにとどまりませんでした。2年目となる2017年度からは、開発した「こまちモデル」のノウハウを他地域や他団体へと波及させる「横展開」に本格的に着手しました。
千葉県松戸市や宮城県石巻市、さらには神奈川県内の様々な自治体(小田原市、座間市、川崎市など)において、まちづくりキーパーソン養成講座や、子育て中の母親の主体的な活動を生み出す講座などを多数開催しました。石巻市で開催された「じぶんプラスカフェ」では、参加した母親たちから「パパ友を作る機会がない」といった地域の課題解決に向けた企画が実際に生まれるなど、ノウハウの普遍性と有効性が各地で証明されました。また、「高齢者」や「障がい者」など異なる分野の居場所を運営する団体が集う「4カフェ学びあい研修」を実施し、コミュニティ運営のノウハウを相互に磨き合う取り組みも展開されました。
さらに、活動を継続可能なものとするための「事業性」の構築においてもさまざまな模索が行なわれ、モデルと型作りに取り組みました。3年間をかけて、「利用者負担(参加費・会費など)」「地域負担(寄付・協賛など)」「横展開収入(自治体向け講座開催など)」という3つの層からなる「自主財源モデル」を設計・検証し、確立するに至りました。これにより、想いや熱意だけでなく、事業として自立し継続していくための経営基盤が整いました。

おわりに:社会を変える協働のかたち
CRファクトリーがこまちぷらすに3年間かけて提供した伴走支援は、単なる運営アドバイスの枠を遥かに超えるものでした。コミュニティマネジメントの知見を活用し、こまちぷらすが目指すカフェ・組織・コミュニティの姿を実現するために、さまざまな企画や構造設計やコーディネートや人材育成に取り組みました。
3年間の伴走支援によって、こまちぷらすの原理原則となるコミュニティづくりの考え方や基本思想が構築され、誰もが敷居低く関わり、いつの間にか「まちの担い手」へと成長していける、多くの方々が関われる団体・活動・コミュニティへの進化しました。
CRファクトリーのコミュニティマネジメントの知見・ノウハウが、こまちぷらすの情熱あふれる実際の現場に落とし込まれたことで、孤立を防ぎ、人々の力を引き出すこんなに素晴らしい団体・活動になりました。
CRファクトリーの長年にわたるコミュニティづくりの専門性と、こまちぷらすの情熱あふれる想いと現場が掛け合わさり、「地域に根ざした新しいコミュニティのモデル」が誕生しました。この3年間の協働の軌跡は、全国各地で地域課題に立ち向かう多くの団体にとって、持続可能であたたかいコミュニティを創り上げるための、確かな希望と道標となることでしょう。






