第2因子「自己有用感」の処方箋 ~具体的な取り組み~

第2の因子は「自己有用感」です。「自己有用感」とは、ただ活動に参加するだけでな く、「自分は役に立っている」「必要とされている」と思える感覚のことです。この「自己有用感」をつくっていくためにはどうすれば良いのか?3つのポイントをご紹介します。

1. 役割と出番を設計する   
2. 興味と得意を把握する   
3. 活躍と貢献に感謝する   

1. 役割と出番を設計する
1つ目のポイントは、「役割と出番を設計する」ことです。その活動に必要な業務・やることを洗い出しながら、「他のメンバーが担当できる仕事・業務はないだろうか?」と考えて、「役割」や「出番」を積極的につくっていくのがポイントです。

どうしても代表やコアスタッフなどの中心メンバーが多くの仕事・業務を抱え込みがちです。コミュニティ運営は知らぬ間に自然とその力学が働いて、いつの間にか中心メンバーに負荷が集中しがちなのです。まずはそれを棚卸ししてみて「この仕事は◯◯さんに任せてみてはどうだろうか」「この役割は参加者のみなさんにもお願いできるのではないか」と、仕事・業務の分担・割り振りについて考えてみます。

「自分たちでやれちゃうから」という理由で、まわりのメンバーを活用せずに、中心メンバーだけで運営を担ってしまうのはよく起こる現象です。さらには、「こんな仕事をやりたい人はなかなかいない」「お願いするのは気がひける」「お願いする方がめんどう」といった理由で、なかなか役割分担・業務分担しないままに、中心メンバーだけで進めてしまうこともよく起こることです。

しかし、このスタンスは他のメンバーの役割・出番への参加を無意識に阻んでいると共に、中心メンバーへの負荷集中を構造的に招いてしまうことにもなります。これは「提供側」と「お客さん側」というサービス構造をつくりあげることにもつながり、「みんなでつくるコミュニティ」という構造から遠ざかっていくことにもなりかねません。まずは自分たちが担っている仕事・業務を洗い出して、棚卸し・リストアップをしてみましょう。そして、その中から他のメンバーにお願いできる業務がないか、検討してみましょう。

そして、最も重要な観点は、人は「役割」や「出番」を持てることによって活躍の機会がもたらされ、それが自己有用感につながるということです。「受付を手伝った」「司会をやった」「イベント報告記事を書いた」「チラシをつくった」「懇親会の幹事をした」などなど。その「役割」や「出番」を通じて、「自分は役に立っている」「必要とされている」という感覚が出てきて、それが団体・活動へのコミットメントにつながったり、さらには居心地の良さにもつながることでしょう。

「役割」や「出番」を設計して、一人ひとりの活躍をコーディネートしながら、いきいきと輝くメンバーが多い組織・コミュニティをつくっていきたいものですね。業務負荷の低減のためだけでなく、役割・出番を持って自己有用感高く関わるメンバーを増やすためにも、「仕事・業務の洗い出し・棚卸し」と「役割・出番の設計」に取り組んでみてください。

2. 興味と得意を把握する
役割と出番が設計できたら、その役割・仕事をメンバーにお願いする段階に入ります。
「◯◯さん、この仕事お願いね」と具体的な役割や仕事を依頼していきます。そのときに意識したい大切な観点・ポイントが、「興味や得意に基づいた適材適所配置」です。ボランタリーなメンバーが多い組織においては、特にこの“興味や得意に基づく”ということが大切であり、興味や得意に基づいた役割依頼や業務依頼が重要になってきます。役割や業務が、本人の「興味」や「得意」に結びつくことによって、意欲が湧いて、力が発揮されて、成果も出るのです。

「興味」と「得意」について整理しておきます。

■興味:やりたいこと・好きなこと・関心があること(Want)
■得意:できること・経験があること・上手なこと(Can)

興味の場合は、例えば、イベントが好きとか、ウェブマーケティングに興味があって関わりたいとか、人事・組織づくりをやりたい、などが挙げられます。本人がやりたいこと・好きなことを把握して、そこに関連づいた役割や業務になると、俄然やる気は出ますし関わりも継続しやすくなるでしょう。

得意の場合は、例えば、パソコンが得意、司会が得意、事務の経験が豊富、写真が上手、などです。人前で話すのが得意な人には、イベントで司会をやってもらうのもいいでしょう。裏方で事務をするのが得意な人には、名刺入力、物品の発注・管理、会計まわりなど、運営基盤の整備を担当してもらえると心強いですね。人にはそれぞれ得意分野や強みがあって、それを活かして力が発揮できることは、本人にとってもうれしいことですし、団体・組織にとってもありがたいことです。

このように、メンバーの興味や得意に基づいた役割依頼・業務依頼は、本人が持っている力を引き出し、高いパフォーマンスにつながります。やる気が湧きやすいですし、内発的なエネルギーが出ますからね。やっている本人も、自分の「興味」や「得意」に結びついているものであれば楽しさを感じやすいですし、やりがいや充実感も感じやすいでしょう。

われわれは目の前の業務に追われてしまうと、どうしても「これ必要だから誰かやってもらえないかな」という思考になってしまいます。もちろん必要なことは誰かがやらなければならないし、それをみんなで分担して運営をしていくのですが、その役割分担や業務割り振りの際に、“メンバーの興味や得意に基づく”という観点を取り入れたいものです。

できるだけ、本人がやりたいと思えて、その人の持ち味が活かされる役割・業務になれば、その分一人ひとりの力は発揮されやすくなるでしょう。組織にエネルギーが出てきて、運営の推進力も上がってきます。人の力を引き出し活かすためには、本人の「興味」や「得意」を把握して、役割や業務をそれに結びつけていくというところがマネジメントのポイントです。

3. 活躍と貢献に感謝する
いざ興味と得意に基づいて適材適所配置をして、日々の業務や活動が進みはじめたら、 次に大切になってくるのが「フィードバック」です。「その役割や仕事がどれくらい団体の役に立っているのか」を、要所要所で本人に向けてフィードバックしてあげることが自己有用感につながります。「◯◯さんのここはすごいなぁと思っているよ」「◯◯さんのおかげですごく助かっているよ」など、その人の優れていると思うところや、いつもありがたいと思って感謝しているところを、具体的な言葉にしてフィードバックしてあげることが大切です。

残念なことに、人は自分の優れているところや貢献できていることにはなかなか気づけないものです。本人にとっては普通で当たり前のことをしているだけなので、それがどう優れていて、どう貢献できているのかについては、自分ではなかなか認識できないのです。でも、その人の活動(発言や行動)が、誰かにとって・組織にとって、すごく貴重でありがたいということがたくさんあります。

それをちゃんと言葉にしてフィードバックしてあげると「私のこういうところは優れているのかぁ」「私のこういう部分は役に立っているのかぁ」と改めて気づかされることになります。逆に言えば、こういうことをしないと、人は自分の優れているところや役立ち・貢献をなかなか認識できません。積極的なフィードバックを心掛けたいです。

私たちはこれを標語のように「ほめる・ねぎらう・感謝する」と言っています。メンバーのすごいと思うところに対して「すごいね!」とほめる。メンバーの苦労や大変さに対して「お疲れさま」とねぎらう。メンバーの貢献に対して「ありがとう」と感謝する。こういう声かけやフィードバックをすることで、メンバー本人は「自分は役に立てている」「必要とされている」と自覚できると共に、まわりの人たちからコメントをもらってうれしい気持ちにな ります。

活動を前に進めることだけで必死になっているとまわりのメンバーへの声かけやフィードバックが疎かになってしまいます。一度スタッフになると、自分も含めてやるのが当たり前になって、わざわざ優れているところをフィードバックしたり、助かっているところに感謝したりすることを怠ってしまいます。しかし、人には感情や気持ちがあって、仲間からの声かけやフィードバックはとてもとてもうれしいもので、それこそがやり甲斐やモチベーションにつながるぐらいの重要なものなのです。

「ほめること」や「ねぎらうこと」や「感謝すること」が多い組織・コミュニティにしていきましょう。そういう声かけやフィードバックがあることで、普段やっている役割や仕事に「意味」が出てきます。「意味」を感じられれば、やる気や活力も出てきます。自分は「役に立てている」「必要とされている」という自己有用感も高まっていきます。人の気持ちをあたためるように、要所要所で声がけやフィードバックをしていきましょう。

自分のコミュニティの「自己有用感」を測ってみる