第3因子「居心地の良さ」の処方箋 ~具体的な取り組み~

第3の因子は「居心地の良さ」です。「居心地の良さ」とは、物理的な快適さというよりも、「メンバーとの人間関係が良好である」「このメンバーと一緒に活動することが楽しい」「この仲間と一緒にいると落ち着く」と思える感覚のことであり、それらによる「居心地の良さ」が第3の因子になります。

この「居心地の良さ」は、関わるメンバーが気持ち良くイキイキと活動する上でとても重要であること(=メンバーへの効果・影響)と同時に、活動を前に進めて成果を出していく上でも非常に重要な要素(=成果への効果・影響)になるのです。まずは「居心地の良さ」の重要性・効果における2つの側面について見ていきましょう。

Google が見つけた「心理的安全性」の大切さ

2012年に、アメリカGoogle社のリサーチチームが、「生産性の高いチームの条件とは何か」の答えを見つける目的で行った「プロジェクトアリストテレス(Project Aristotle)」という研究プロジェクトがあります。
約4年もの年月をかけた研究プロジェクトの成果報告として、『心理的安全性が生産性の高いチームづくりに最も重要である』ことを発表したことにより、国内外で「心理的安全性」が注目されるようになりました。

「心理的安全性」とは、他者の反応におびえたり羞恥心を感じることなく、チームのメンバーひとりひとりがそのチームに対して気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる環境や雰囲気のことを指します。プロジェクト活動などにおいても、本来の自分とは大きく異なる仕事用の人格を演じることなく、チームに所属する全てのメンバーが普段通りのリラックスした状態で活動に参加することを可能にしてくれます。

この「心理的安全性」が高いことは、大きく2つの効果をもたらすと言われています。

①心理的安全性がもたらす「成果」への効果・影響
心理的安全性が担保されると、メンバーは不安を感じることが少なくなり、自分から積極的に行動するようになります。またメンバー間のコミュニケーションが豊かになり、お互いの自然な協力が生まれはじめます。本来の自分を出せているので、潜在能力が引き出され、自分の強みが発揮され、それが生産性向上につながります。仕事にやりがいを感じられて、優秀なメンバーが辞めにくいとも言われています。Googleの研究プロジェクトの結論は、『心理的安全性が、生産性の高いチームづくりに最も重要である』なのです。

②心理的安全性がもたらす「メンバー」への効果・影響
もう一つの効果は、メンバーへの効果です。心理的安全性が担保されている組織においては、メンバーは自分のことをさらけ出すことができて、居心地が良くなります。楽しいと感じられて、イキイキさや充実感が高まります。組織への愛着や、一緒に活動する仲間への愛着が高まり、長くここで活動したいと思えるようになります。ストレスが減り、メンタルヘルスにおいてもプラスの効果があると言われています。心理的安全性の高い組織が実現することによって、関わるメンバーがイキイキと幸せに継続的に活動できることはうれしいことですよね。

このように、「心理的安全性」や「居心地の良さ」とは、組織や成果に大きな影響を及ぼす重要な要素なのです。高い成果を創り出すためにも、関わるメンバーのイキイキさや充実感のためにも、第 3 因子の「居心地の良さ」を意識して組織・コミュニティづくりをしていきたいと思います。

居心地の良さを高めるためのポイント

それでは、どのようにしたら組織における「居心地の良さ」を高めていけるのでしょうか。「居心地の良さ」は要素分解すると、「メンバーとの人間関係が良好である」「このメンバーと一緒に活動することが楽しい」「この仲間と一緒にいると落ち着く」と思える感覚のことであり、これらはメンバー間の「相互理解」と「関係性」が大きな着目ポイントになっています。ここでは具体的な「相互理解」のための観点・ポイントを見ていきましょう。

1. 背景・歴史・価値観を共有する
2. 団体・活動に対する考え・想いを共有する  
3. プライベートあれこれを共有する

1. 背景・歴史・価値観を共有する
まず1つ目は、そのメンバーの人生や歴史やその人そのものについて理解していこうとする側面です。「このメンバーはどんな人なのだろうか」「どんな人生を歩んできたのか」「どんなビジョンや価値観を持っているのか」など、その人の背景や歴史や価値観のような深いところについて理解していこうとする側面です。

ここが相互理解されてわかり合えてくると、関係性の距離はぐっと縮まり強くなります。活動・業務上で必要なコミュニケーションという範囲を超えて、「その人そのもの」(背景・歴史・価値観など)について相互理解できたとき、お互いの関係性や信頼感は向上し、チーム・組織の雰囲気は格段に良くなっていきます。「みんなのことを深いレベルで知ることができている安心感」のようなものが、チーム・組織の仲間たちの中で芽生えてくるのです。

このような背景・歴史・価値観の相互理解は、どのようにしてつくり出していけばよいのでしょうか。これらは偶発で行われることがあまりないので、意図的にワークショップなどをする必要があると思います。お互いの生い立ちや経歴や価値観を紙に書いて発表し合うようなワークショップを通じて この側面における相互理解は促進されます。

もし偶発的に行われるとしたら、良い雰囲気のご飯会や飲み会でしょう。他愛のない雑談からスタートして、活動の話やメンバーの話などで盛り上がったりしながら、時にその本人の「深い話」になることがあります。そのとき、偶発的に生い立ちが語られたり、経歴が語られたり、その人が大切にしている考え・価値観が語られるときがあります。そんな深いご飯会・飲み会(または合宿・旅行)によって、深い相互理解が行われることもあります。

2. 団体・活動に対する考え・想いを共有する
2つ目の側面は、団体・活動に対して考えていること、その団体・活動に対する想い、などです。普段はいつも通りに仕事・業務をしていながらも、団体・活動についてメンバーはいろいろな考えや想いを持っていたりします。「私がこの団体に関わっている理由は◯◯なんです」「この活動に関わるようになって、人生に生き甲斐が生まれました」「この事業はもっとこういうふうにしていきたいです」「みんなともっと仲良くなりたい」など、それぞれにいろいろな考えや想いを持っています。

それをお互いに知り合うこと・語り合うこと・相互理解することが重要です。仕事・業務を進めるためのコミュニケーションだけではなく、団体・活動に対して何を考えていて、どんな想いを持っているのか。そこをしっかりとコミュニケーション・共有して、お互いの考えや想いがわかってくると、そこから関係性が良くなり、信頼感や安心感が高まっていきます。

これも方法論としては、普段の活動やミーティング以外の時間をがんばって設けて、それぞれが団体や活動に対してどのように考えているのかをコミュニケーション・相互理解することが効果的です。それぞれのメンバーの活動における「振り返り」の機会を設けたり、それぞれの考えや想いを共有できる場を設けることで(例えば研修などで)、相互理解を促進していけると良いと思います。

3. プライベートあれこれを共有する
3つ目は、メンバーの日常に起こった出来事や、趣味・好きなことや、団体・活動以外の様々なことを含んだプライベートなあれこれです。「先週、旅行に行ってきた」「今週末に映画を観に行く」みたいな近況報告や、「この間こんな嫌なことがあった」「先日こんなうれしいことがあった」「いまこんな気持ちです」みたいな気持ちや感情に関するもの、さらには家族のことであったり、学校や職場のことであったり、地域や友人のことであったり、はたまた趣味や好きなことの話であったり、etc。それぞれのメンバーの日常に巻き起こるプライベートなあれこれを共有することは、「団体・活動以外のその人」を知ることになり、その人全体を知れるような感覚が出てきて、親近感が湧きます。

活動・業務の中でその人が見せている顔とは違う「趣味」や「家族」の話を聞いたり、 何か共通点を見出だせたときに、急に心の距離が近くなり、親近感が湧いたことはありませんか。普段はミーティングなどで、活動・業務のことだけをコミュニケーションしていたのに、その人がすごいマニアックな趣味を持っていたり、自分のペットのかわいい写真を見せてくれたり、子育ての悩みを共有してくれたり。そんな仕事以外の一面が見えたときに、その人を多面的に知れたような気持ちになって、そのメンバーに対する親しみや愛着が湧いたりします。

これらのプライベートあれこれを共有・相互理解するにはどのような仕掛けがあるのでしょうか。いろいろな団体をリサーチしてきて、多くの団体で導入されているのが、ミーティングのときの近況報告・チェックインです。いきなり本題から始めないで、まずは最初に参加メンバーの近況報告の時間を取ったり、今の心境を共有し合ったりしています。そうすることでアイスブレイクの効果があると共に、お互いのことを知ることができるという 一石二鳥の効果があります。

また、ミーティングやイベント終了後のご飯会・飲み会です。仕事上の会話や情報共有とは違う、オフサイトのインフォーマルな場におけるコミュニケーションはプライベートあれこれが出やすく、それが仕事以外のその人を知るための良い機会になります。仕事以外の部分がお互いに共有されることで、お互いがお互いを深く多面的に相互理解できることになり、関係性やチーム・組織の雰囲気は良くなっていきます。

その人の「背景・歴史・価値観」のような深いところを相互理解し合うことや、「団体・活動に対する考え・想い」を相互理解し合うこと、そして「プライベートあれこれ」のような仕事以外の部分を相互理解し合うこと。このようないろいろな側面での相互理解を積み重ねることで、メンバー間の関係性や愛着が高まっていきます。

そして、それが積み重なることで、「メンバーとの人間関係が良好である」「このメンバーと一緒に活動することが楽しい」「この仲間と一緒にいると落ち着く」と思える感覚がメンバー間や組織内に育まれていき、「居心地の良さ」「心理的安全性」がつくられていくのです。この重要性・効果に着目して、「居心地の良さ」のある組織をつくっていってください。

自分のコミュニティの「居心地の良さ」を測ってみる