【スペシャル対談企画②】人生にコミュニティの”ポートフォリオ”を(ゲスト/松澤 寿典さん)

CRファクトリーが新たに推進する「コミュニティ活動力教育事業」は、ひとりひとりが自分に合ったコミュニティを見つけ、参加する力を育み、幸せに生きることをめざした取り組みです。

今回の対談では、特にミドルエイジ以降のコミュニティ参加の重要性とその価値について探っていきます。第2回は、三井住友海上火災保険株式会社 主席スペシャリストの松澤寿典さんをゲストにお招きしました。(聞き手:CRファクトリー代表 呉 哲煥)

松澤 寿典さん

・1965年 長野県生まれ
・東京理科大学 大学院(経営工専攻)
・日本電信電話株式会社のR&D部門に入社し、クラウドコンピューティングやセキュリティ関連のR&Dに従事。その後、株式会社NTTドコモに転籍し、情報セキュリティ関連に従事。
・2019年~現在 三井住友海上火災保険株式会社 主席スペシャリストとして、サイバーリスクおよびAIリスク対策に従事。
・MBA取得(2005年)
・成蹊大学 非常勤講師(ソフトウェア工学、2007年~2012年)
・2013年~ サービスグラント・二枚目の名刺等のアレンジで、NPO支援のプロボノプロジェクトに参加。
・准認定ファンドレイザー(2015年、ファンドレイジングスクール1期生)
・キャリアコンサルタント (2018年)
・2017年7月 一般社団法人ソーシャリスト21st設立

ー 本日は貴重なお時間ありがとうございます!さっそく1つ目の質問です。
コミュニティ活動(コミュ活)の必要性・重要性について・・松澤さんご自身は、なぜコミュ活が必要だと思われますか。ぜひお考えをお聞かせください。

松澤さん: これは僕もずっと考えてきたことなんですけど…ミドルシニアって、総じて(属している)コミュニティは家庭と会社。仕事が超忙しいから趣味はほんのちょっとしかしていない。僕自身は妻とテニスをやっているんですが、それ以外の趣味はなかったんです。

自分の先輩を見ていても、退職してから飲みに行ったことはほとんどないです。つまり、会社を卒業したら同僚とお付き合いすることがほとんどない。退職すると、”会社”というコミュニティが8割くらい消失するわけです。

家庭といっても僕は子どもがいないので妻と話すんですが、妻はしっかりとしたコミュニティがあるんです。テニス仲間やお茶飲み友達もいれば、大学時代の同期で旅行に行ったり…。なので今でも、在宅勤務とか言って家にいると大迷惑です(笑)。だから退職したらほとんどの人、特に仕事人間の人は、まるっきりコミュニティがなくなるわけですよ。今まで行けなかったからゴルフ三昧だ!って最初はなるけど、それだけやっててもいずれ飽きるんですよね。

僕はキャリアコンサルタントの資格もあるので先日講習に出たんですが、「トランジット」=人生の転換期みたいなのがあって、普通サラリーマンをやっていると退職を機にコミュニティが変わりますとか、子ども達が独立すると夫婦だけになりますと。

そういう切り替えのタイミングで、コミュニティの関わりってすごく変わってくると思うんです。そこをどうするのかが重要で、当時僕の会社は役職定年が53歳だったので、自分は40代後半くらいからこうなることは予測できていたので…それでプロボノをやり始めたんです。
趣味だけではお金も使うし、パラレルキャリア=副業でもいいんですが、仕事でも趣味でもない社会貢献的な話とか、学びみたいなことがあるとすごくいいんじゃないかなと。

最終的には会社がなくなっても、コミュニティをある一定量の数は持ちたいと僕は思っています。

松澤さん: 学びの件でいうと、40歳くらいのときMBAを取りに行きました。学びのコミュニティって、後からもずっーと楽しめるんですよ。こんなこと勉強して面白かったね!とか、学びの延長でどこかに行こうとか、話題も合う。若いときの同期も大事なんですけど、40代のMBAで、同じような境遇の人と出会ってとっても楽しかったんです。それなりにみなさん課題を持っていて、学びをやって実践して…と、その後もずっとコミュニティとしては継続していくんじゃないかな。

コミュニティには定年がないし、会社をやりながらパラレルでプロボノや学び、地域活動にも参加していく。最終的には会社がなくなっても(もちろん会社つながりでも同じ趣味の人とかは、仕事以外でも集まってというのはあると思うんですが)、コミュニティをある一定量の数は持ちたいと僕は思っています。これを”ポートフォリオ”と言っていて、資産運用とかと一緒で。

松澤さん: 実は僕は田舎育ちでワンコミュニティしかなくて、地域の人がすべて何でも知っているような状況。1個揉めるともう大変!みたいになるわけですよ。僕の中では、そんなときに複数のコミュニティがあればバランスがとれるわけです。例えば妻と喧嘩したらしばらく趣味に走れる(笑)。他のことで紛らわす・あるいは時間を置くことができる。意外と「あれ?なんであんなことで揉めてたんだろう?」ということもあると思うんで、このポートフォリオというのは結構重要ですね。

ー 普段からすごく考えられているんですね…!このポートフォリオの図もとてもわかりやすいです。

松澤さん: 私はこれまで趣味に関してはほとんどやってこなかったんですが、この1年山ほどやっているんですよ。昨年末からスノボにチャレンジして、今では連続ターンもできるようになりまして。あと、サップもやっていて、今年の夏はサーフィンをやりました。そして今はピアノを買って勉強してまして、10月には発表会もあります。それで先日はイタリア旅行に行ってきたり。

ー すごいですね!上記の図の赤いところ(趣味)がどんどん広がってますね!

松澤さん: そうそう(笑)。こういうのは今まで、子どもの頃から一切やったことなかったんで、自分は何をやりたいのかな?と思って。ピアノも意外と面白いんですよ。僕はずっとサイバーセキュリティのようなことをやっているから、音楽で指先を使うとか、脳の他の領域を使うことは認知症対策にもなるかなと。こんなふうに趣味にも色々手を伸ばしてとりあえずやってみて、将来どれを主軸にしようかと模索しているところですね。

他の場所に行ってみると、いわゆる”サラリーマンのスキル”とは全然違うところが強みになったりする。

松澤さん: あとは、プロボノの話ですが…会社におけるコミュニティは極めて狭く、多様性も乏しい(と感じます)。大企業にいましたが、入社した時からだいたい同じくらいの学歴で、同じような思考回路の中でずっとやってきていたので。

そんな中で、例えばプロボノでNPOと関わると、企業だとどうしても合理的判断が働く中、「面白そう!」とか、エモーショナルな価値基準で考えたりしますよね。経済合理性より、何が大切なのか?を考える。社会的課題、地域貢献のこととか、(企業にずっといると)全く知らないわけです。

呉さんが挙げていらっしゃる「コミュ活の10個の力(※後述)の中に、「自己理解力」というのがありますよね。僕の感覚になりますが…サラリーマンの自己理解で、サラリーマンのままで自分が何ができるか?だけでは全然足りないと思ったんですよ。僕ぐらいになるとね…何もできないんです。両面コピーも取れない、会議室も取れない、飲み会の幹事もできない。なぜならみんな部下がやってくれるから。

ですが、こういうこと(プロボノなど)を通じて、「世の中にはこういう課題もある、そうすると自分のスキルを少しアジャストすれば役に立つんじゃないか」と気づく。リスキリングというと語弊あるかもしれないですが、そういうことをやらない限りは、そうそうコミュニティにとけ込めないと感じたんです。

松澤さん: 僕の理解だと、僕らの世代の人たちは、自分が得意でないと”スキル”だと思わないところがある。何もできなくて、外に出るっていうことは”武器のないところで戦わないといけない”みたいな感覚を持ちがちで。

だけど実際に他の場所に行ってみると、僕らが中途採用で履歴書に書く、いわゆる”サラリーマンのスキル”とは全然違うところが強みになったりする。若い世代の人の話を聞いてちょっと言葉をかけたことがすごく喜ばれたり。そういうのも実は(そうだと思ってなかったけど)スキルだということに気づけましたね。

やっぱり、シニア世代は”できないことをオープンにする”のが非常に難しい。恥ずかしいから言いたくないじゃないですか、コピー取れないこととか(笑)。そこでいろいろ教えてもらって「ありがとう助かった!」ということが言えて、感謝できるというのは結構なスキルだと思いますよ。

ー なるほど…!ありがとうございます。こうした松澤さんの実体験も含めて、少し話が重なる部分もあるかと思いますが、コミュ活の効果効用についてはどう思われますか?

松澤さん: やはり選択肢がものすごく増えますよね。人とのつながりという意味でも(呉さんとも学びの場でいつもご一緒させてもらっていますけど)例えばボランティアのつながりで、そこで趣味がつながって、ビジネスに行く、ということもあると思うので。そういう意味では、人とのつながりが増えて可能性が広がるというのが一番大きいですね。

ー なるほどそうですよね!そして、先ほどのポートフォリオの話も。どこかのコミュニティでうまくいかなくても、コミュニティがクッションになってくれてリスク分散されるというのはありますよね。

ものさしが1個だと、もっと深い”HUMANな課題”があるということにたどり着けないんですよ。

ー では先ほど少し出てきました「コミュニティ活動の中で必要な10個の力」について自己理解力についても触れてくださいましたが、この中で、松澤さんが他にこれは重要だなと思うものがあれば教えていただけますか。

松澤さん: やっぱり「環境適応力」ですよね。傾聴とか、多様性許容力。
サラリーマンをやっていると、これほとんどないんですよ(笑)。同じ会社にずっと勤めているとほぼ同じカルチャーで、ある程度ランクが上がると相手が合わせてくれる。だから自分がそういう考え方もあるのか~と合わせにいくとか、何が違うんだろうかとよく聴いてみる、という習慣がほぼないです。「いいから俺の言う通りに早くやれ!」となっちゃう。

「多様性許容力」に関して言うと…うまくいかない・意見が合わないことがストレスになるか、「こういうふうに考える人もいるのか!」と思うかというのは重要ですね。
僕は理系なんですぐ「問題・課題って何?定量的に数字で示して」と言っちゃう。僕の中では、問題はグラフ・数字の中にしかないものだったんです。ところが(NPO活動などで)エモーショナルで誰々さんが困ってるイラストを見て、「これが課題か!」と。そういうふうな表現もあるのかな、と気づいたりする。

ビジネスマンの価値基準・ものさしが1個しかない状態で、地域やNPOに関わる(やれると思う)のはあまりよくない。僕が最初にプロボノで関わったときもそうなんですけど…小さな団体で課題解決!みたいな話をするとき、僕らはそれが本業で「こういうふうにやれば?」ときれいな絵をすぐ描いてしまって、理詰めで話してしまう。

でも、そんなのは表層的な話であって。環境的にできないとか、人間関係で揉めてるとか、人がいないとか、そもそも情熱が足りないとか…。ものさしが1個だと、もっと深い”HUMANな課題”があるということにたどり着けないんですよ。そこは何回もやってきて、そういうものなんだと(気づきました)。僕には”寄り添う”という意味がずっとわからなかったんです、サラリーマン的にはそういうのはなかったから。

ーなるほど、いろんな価値観に対する理解や許容、認めていくのが大事ということですね。

「新入社員になりましょう!」 ということを伝えたいですね。

ー これもちょっとすごく訊いてみたいんですが…「会社多め・家庭中くらい・趣味少なめ」という状態から、どうやって今の松澤さんのように変化したのか。何かノウハウやアドバイスがあればぜひ教えていただきたくお願いします!

松澤さん: なんでしょうね…一番は、”好奇心”ですね。好奇心がめちゃめちゃ大事。
一方で、”めんどくさい”というのはあるんですよね。だっていい歳して、今からピアノやる?本当?みたいな…時間もかかるし、そんな簡単にうまくいかないし。
イタリアだって、別に行かなくてもGoogleマップのストリートビューも見られるし、YouTubeでも旅行している人の動画山ほどありますし、それだけで行った気になれる(笑)。
だけど、イタリア語は話せないけど自分で現地に行って、切符買って電車乗るってだけでも「すごい!」「これやってみたい!」と思うわけです。

おそらく僕の想像では、コミュ活をやっていない人は、多少好奇心はあるものの、どこかで「別に俺やらなくてもいいや」と思っちゃうのではないかと。できないところを探して仮に誰かに笑われてたり、変なこと言われてまでコミュニティ活動しなくていいじゃんとか思っちゃう。

ただ、そこをやるとやらないでは、100年人生ですから、後半の薔薇色の度合いが全然違う。だから、「新入社員になりましょう!」 ということを伝えたいですね。

学生時代は、小学校6年生になったら年長といわれて1年生の世話をして、中学1年になったら大人みたいな3年生がいて、また3年生になったら偉そうにするんだけど高校入ったら…みたいな(笑)。3年くらいで上と下の立場をしょっちゅう経験するわけです。
ところが22歳くらいで会社に入ってサラリーマンをしていると、ずっと年長さんだから、新入社員の気持ちがわからない。

ー なるほど!低学年の頃の気持ちを忘れているわけですね。

松澤さん: 例えば高校同窓会に行くと、僕くらいが新入社員の年代で。大御所は70~80代くらいの大先輩、「気が利かねぇな」って怒られたりするわけです(笑)。それを面白いと思うのか、50になっても新入社員みたいに先輩に怒られなきゃいけないのか、と思うのか。

松澤さん: 僕は、実は名刺がなくなることが怖かったんです。もうちょっとして退職したら名刺がなくなるんだ!と気づいて。名刺交換して、「こんな大きな企業にお勤めなんですね!こんなことやられてるんですね」みたいな話が、退職したらないわけですよ。僕がコミュニティに参加するときは名刺入れ必携なんですが、たまに(退職して)持ってない人もいる。そうだよなと。これ、例えば何か事件に遭ったら”6●歳、無職、松澤”と書かれるのか…と(笑)。

そういう意味では、会社の肩書きが外れても「私はこんなことが大好きだからこんな名前を名乗ってます」と名刺があって会話ができて、「それ面白いから教えてくださいよ!」みたいな感じになれるといいなと。

ー 確かに!サークルでもいいし、地域でやっている学びの場などのメンバーでもいいから、そういうのがあるだけでもいいですね。

”ポートフォリオ”の考え方を持てると、アイデンティティが独立する。そのバランスの取り方で、人生の過ごし方はだいぶ変わっていくと思うんです。

ー それでは締めに、これからコミュ活をする方々へぜひメッセージをお願いします!

松澤さん: やっぱり先ほども言いました”ポートフォリオ”ですよね。サラリーマンをやっているときには、”組織の中”に自分がいる。つまり自分は●●組織の一員というのがアイデンティティなわけです。
それがなくなったとき、ポートフォリオの考え方を持てると、自分は1人だけどあるときはNPOのコミュニティ、あるときは学びのコミュニティ、あるときは趣味のコミュニティ…というように、アイデンティティが独立する。その中でいいコミュニティに関わっていく、そのバランスの取り方で、人生の過ごし方はだいぶ変わっていくと思うんです。

ー そうですよね!(アイデンティティが)複数になりますもんね。ちょっとキャラも変わることもありますし。

松澤さん: どうしても、組織の中の一員と考えると、組織に自分を合わせようとする。それが居心地が良ければいいとは思うんですが、それが染み付いていると、他の組織には非常に入りにくくなる体質になってしまう。そこは一旦独立させて、どこのコミュニティでも入っていけるように自分を変えていく。それが大事かなと思います。

ー なるほど!経験談を交えたたくさんのお話、本当にありがとうございました!!

「コミュニティ活動力」を深めたい方はぜひ!

【1月開講・参加者募集!】
“コミュ活”プログラム
「コミュニティライフシフト」
~人生のポートフォリオに「コミュニティ」を
(全5回/東京・田町&オンライン)

■日程[2024年]
Day1  1月20日(土)13:00-17:00 @リアル(東京・田町)
Day2  1月25日(木)20:00-22:30 @オンライン
Day3  2月 3日(土)13:00-17:00 @リアル(東京・田町)
Day4  2月22日(木)20:00-22:30 @オンライン
Day5  3月 2日(土)13:00-17:00 @リアル(東京・田町)

■リアルの会場
Day1、Day3、Day5:コミュニティスペースmingle(東京都・田町)
東京都港区芝4-7-1 西山ビル4階
アクセスはこちら

■定員
20名

■参加費
22,000円(今回のみの特別価格)

 詳細・お申込みはこちら

【お問い合わせ】
NPO法人CRファクトリー イベント事務局 event@crfactory.com

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