「子育てを、まちでプラスに。」
特定非営利活動(NPO)法人「こまちぷらす」の合言葉です。
こまちぷらすは、神奈川県横浜市戸塚区にある「こまちカフェ」というコミュニティカフェを拠点に活動されています。
こまちカフェの様子
孤立した子育てをなくし、子育てが「まちの力」で豊かになる社会をめざした活動です。
2016年からは、こまちぷらすとNPO法人CRファクトリーの協働で「つながりデザインプロジェクト」という取り組みをはじめました。
「居場所を通して『いつのまにか』まちの担い手になっていく」
そうお話されていたこの取り組みには、子育てや地域のみならず、コミュニティカフェ運営や組織マネジメントにおいて大切なことがたくさんつまっています。
今回は、こまちぷらすの「つながりデザインプロジェクト」について深ぼりしたく、こまちぷらす代表の森祐美子さんに、CRファクトリー代表の呉哲煥がインタビューしました!
(左)森祐美子さん (右)呉哲煥
(文章:ひろせめぐみ)
「つながりデザインプロジェクト」とは?
森さん、今日はよろしくお願いします!早速なんですが、「つながりデザインプロジェクト」がどのような取り組みかを、改めてお聞かせください。
「つながりデザインプロジェクト」は、居場所を通して「いつのまにか」まちの担い手になっていくを合言葉にした取り組みです。
はい。「いつのまにか」という言葉はすごくこだわりました「担い手になりたい!」と思って来ている人がここにいたかというと、そうでもないんですよ。
はじめは担い手になるつもりはなくても、居場所に通っていたら、気がついたら担い手になっていたということですね。
そうなんです。その流れをごく自然に生み出していくのが「つながりデザインプロジェクト」です。
「つながりデザインプロジェクト」が生まれた経緯
「つながりデザインプロジェクト」はどのようにして生まれたのですか?
壁ですか!どのような経緯でその壁にぶち当たったのですか?
まず、こまちぷらすのビジョンからお話していきますね。こまちぷらすは、孤立した子育てをなくすために、いろんな人の力が活かされていくこと。そのことによって子育てが豊かになっていく社会をめざしています。
はい。その「てこ」は「対話と出番」を増やすことだと考えました。それにより孤立をなくし、子育てに関わる人を増やすことができる。
ところが「対話と出番を増やす」のはなかなか簡単なことではなかったです。
そうなんですね。想定していたよりも難しいことがあったのですか。
はい。まずは場が必要だと思って「こまちカフェ」をつくりました。でも、カフェが軌道にのるにつれて壁にぶち当たったんです。その壁が「つながりデザインプロジェクト」ができた背景です。
こまちカフェ
こまちカフェでの「対話と出番」をつくる難しさ
ある時期に組織の基盤を整えたのですが、有給スタッフの組織へのコミットが強くなった一方で、ボランティアさんのある種の関わりにくさも生まれてしまったんですね。
「人の力が活かされる」というのが「てこ」だし、キーポイントだと思いながらも、コミットの高いメンバーで進めているみたいなジレンマ。
はい。また、時間をかけてもかけても、ニーズを果たしきれていないというのもありました。
「私の役割って何だろう?」と問いを持って来ているニーズです。それに対して、こちらが出番をつくりきれていなかった。
「対話と出番」の「出番」がつくりきれていなかったのですね。
はい。「対話」の方も、コミュニケーションの場としてカフェがある一方で、ランチを出して経済性も回していかないといけない。
そうなんです。ひとりひとりしゃべりたい時間があるのに、すべてに対応しきれない。ビジョンを掲げてやっているのに「対話と出番をつくることをやりきれていなんじゃないか」とスタッフ間で感じる時があります。
カフェとして「回しているだけ」になってしまって「対話と出番」までいききれない課題があったということでしょうか。
「このままだと、いつかそうなっていってしまうんじゃないか」という危機感がありました。でも「対話と出番をつくる」という、とても時間のかかることもしたい!
その壁が「つながりデザインプロジェクト」を生み出したということですね。
カフェでありながらコミュニティであること
どこのコミュニティカフェも共通の話題で「カフェとしてはなんとか回っているけれど、コミュニティをつくれていない」ということがあります。こまちぷらすは「コミュニティ」への欲求をすごく感じました。
担い手になる前の段階、「愛着」とか「人って信頼できるな」「子育ての不安は大きいけど、がんばれるかもしれない」っていう温度がまずあって、「私も地域で何かできるかもしれない」と思えるようになるまで段階がある。
このような段階を進むための施策は、すごく時間のかかることだし、わかりにくい。ゆえに見過ごされがち、置き忘れられがちなんですよ。
日々の忙しい業務の中でも、面談したり、一緒に作業したり、ご飯食べに行ったりとかは「売上」や「成果」というリターンからすると遠いんですよね。一見コストに感じちゃう。
経営や数字を扱っていると、それは感じるところではあると思います。
そのタイムラグを認識するセンスを持つこと、見過ごされがちだけど組織の基盤になっていると知ること、それをみんなで共有することって、コミュニティ運営においてすごく大事なことなんですよね。
「経済性と気持ちを育てること」は活動の両輪
逆にこまちぷらすは、コミュニケーションに関しては「コスト」と感じる人は少ないかもしれないかもしれません。だからこそ「居場所が長く続く」っていうのが難しいところでもあるんですよね
そういうケースもありますね。お金が回らないときに「続けられない」ってなっちゃうとか、一部のメンバーが疲れたりとか。
事業としてやる時は、対話にも時間を費やしたいけれど、そこにどこまで時間を使えるのかという課題があります。担い手への段階を進めるという意味では、投資だなという感覚もありますね。
両輪なのかもしれないですね。持続可能な経済性と、気持ちを育てていくこと。
「居場所」だから、それはすごくやりやすい、という感じはします。メンバーが足踏みしたりするのが必要なステージがあるけれど、それがしやすいのかなと思いますね。
「つながりデザインプロジェクト」で大切にしていること
「つながりデザインプロジェクト」ではじめから大切にしていることはありますか?
「参加した人が話をする」ということ。これは、すごく大きな鍵なんじゃないかという確信はありました。
「参加した人が話をすることが大事」なぜそう思ったのですか?
いらっしゃる方の中には、言葉を出す元気がなかったりとか、言葉が見つからない、いろんな選択肢が断たれてあきらめてきた、というような経験をもった方がいます。
言葉を出す、しゃべるって、実はすごいエネルギーのいることですよね。
そうなんです。そして「これからどうしていきたいか」って、意外と話す相手や話す機会がないんです。
その感覚よくわかります。自分でもわからなくて立ち止まる、ということがありますよね。
はじめは「みんな、しゃべろう!」といってしゃべれるものでもありません。「言葉が見つかるまで」また話をしなくても、居心地よくいられる場をどうつくっていくかというところも含めて、「こまちパートナーの説明会」や「おしゃべり会」「もくもくの会」などの場を突き詰めて設計しました。
※こまちパートナー…こまちぷらすの理念に共感しスタッフと共に活動を推進するボランティア
まずは、居場所があること。そしてゆくゆくは話を聞くだけじゃなくて自分の言葉で話をすること。この段階を進みながら気持ちがつくられていくということはありますよね。施策の設計、大事です。
その前段階として、CRファクトリーと一緒にコーディネーターを2名育てたり、自分たちの事業を整理して、打ち手を設計して実践したりしたのはすごく良かったです。
施策について考える機会をもつことの大切さ
他にも、CRファクトリーと一緒に打ち手を体系立てて積み上げることができたっていうのは、すごく大きかったです。
体系的に積み上げていくというのは、どういうことですか?
コミュニティづくりに必要な要素だったり、場をつくることだったり、マメなコミュニケーションだったり。「まず、これをやればいいんだ」という安心感があります。
あとは「コミュニティづくりに時間を使っていい」って私達が思えること。新たな打ち手設計と微修正、その伴走をCRファクトリーにしていただいた。また上司じゃない第三者が一緒に考えてくれるっていうのは、すごく大きかったです。
普段の業務だったり、自分がプレイヤーとしてやっていくことは、文化としても、力学としても、周りの理解としてもやりやすいこと。一方で、コーディネーションは目に見えなくて、成果としても遠く、タイムラグをもってしか現れない。そのためにミーティングをしたり、考えることって、なかなか周りの理解を得づらいんですよね。
本当にそうです。だけどあの時、組織としてコーディネーションをしっかりやったからこそ生み出した価値っていうのは、すごく大きいな!って思いますね。3年かかりましたし、そう簡単ではなかったですけれど、周りで、その価値を腹落ちしている人は増えました。
それは良かったです。「周りの理解の変更」を生み出したんですね。
「つながりデザインプロジェクト」で創り出した価値
プロジェクト3年続けてきて、創り出した価値はありますか?
プロジェクトの年数を重ねてくると、それに伴って関わる人の深さと幅も広くなりました。
事業の年数を重ねてくると、コーディネーターが心底価値を感じるようになります。それはとても良いことなのですが、一方で当事者感覚というものがどうしても薄れていってしまう。
覚悟が決まって深まると、一方で薄れてしまう感覚がある。
でも、こまちカフェには多様でいろんな段階の人がいるから、お客さんの不安の気持ちや感覚をもっている人もいて。「このカフェ入りにくいかもしれないから、外でお野菜を販売しよう」って話が出たりして。今も月に1回売ってくださっているんですよ。
そういう感覚を持っているパートナーさんがいるのは心強いですね。
お客さんの感覚が残っているからこそ、こまちぷらすが「誰もが抱えている孤独感や孤立をなくす」という意識を常に持ち続けられています。
いろんな人がいるからこそ生まれる価値があるのですね。
いろんな役割のバリエーションがあって、ある意味、全員がコーディネーターのような存在です。また「自分のやっていることに意味がある」ということを、自分の言葉で語れる人が増えてきました。その方々が一緒に事業をつくってくださるのが、最も大きな価値なんです。
多様な人が関わることの難しさ
プロジェクトを続けてきて、大変だったことはありますでしょうか?
先ほどの裏返しになるのですが、たくさんのいろんな方がいてくださることによって、生まれた新たな悩みはありますね。
皆さんそれぞれに探している自分らしい関わり方、こんな出番があったらという思いがありますが、そこに十分にこたえきれない。私達ができる範囲はどこからどこまでなのだろう、というような悩みです。
最近わかってきたことがあって。ずーっと休んでいた人が、2年たってぽっと来る時があるんですね。これくらいの時間の流れなんだと、私たち自身が「そういう人もいる」って認識しておく。そうしないと、ずっと参加できていない人が申し訳なさを感じてしまうんです。
はい。私たちがどんなに投げかけても響かない時間がある。対流したり、戻ったり。言葉をとりもどすのにとても時間がかかる人もいるし、小さな一歩でも踏み出すのに時間がかかる人もいる。人には間が必要なんです。
そういう意識をみんながもっている場や組織はいいですね。
場があることの強みですね。関わりを途切れさせることなく続けられる。
いろんな方がいる中で、響かない時間がありながらも、どんな想いをもって投げかけているのでしょうか。
お客さんやパートナーさんとのコミュニケーションの中で、周りも自分も豊かになっていく場面があります。この喜びを少しでも共有できたらうれしいですね。
みんなの心の感動体験や、心が豊かになる部分が増えて重なってくるといいんだろうなと感じました。
施策を整理して共有することの大切さ
いろんな人がいるという課題感の中で取り組んだことはありますでしょうか?
はじめは「こういうニーズがあるからつくりたい」で場をつくってきました。そうすると最初はいいのですが、2〜3年で「これってどこにつながるんだろう?」という迷いになりました。
はい。「ここは入口のため」「ここは来てくれた人のため」「ここは足踏みする場」と整理しました。どんなステージなのか、みんなで共有していくことが大事なんですね。
いくら場をつくっていても、認識を整理できていないと「参加はしているけど出番がない」となったり、足踏みしようとしているのに「参加し続けなさい」となってしまったりします。そういうことが起きないように整理することができた。
最初の入り口では、いろんな人がきます。入り口で全部こたえようとするのではなく、入り口からそれぞれどのようにつなげていくか、そういう認識をみんなで共有することで判断しやすくなるんです。
印象的な2つの施策
いろんな人がくる中で、行った印象的な施策はありますか?
「つながりデザインプロジェクト」には、様々な会があります。
この中でも「企画の会」と「もくもくの会」をはじめたのは大きかったです。
「企画の会」とは「何かを生み出したい」という気持ちを持った人が一定層いて、その人が目指すところまで一緒にいき、伴走する場です。一対一というよりは、学び合いの場。まちの担い手にもつながります。
また、反対に生み出したい人ばかりではないので「もくもくの会」というのも行っています。
もくもくの会は1〜2時間、部屋に集まってもくもくと作業をします。タグのチェックやチラシ折りなどです。役割がある方が場に入りやすい人もいるし、はじまりと終わりがハッキリしているので、達成感もあります。
いいですね。もくもくの会にはどんな人が来ていますか?
「居場所を感じていたい」「どこかに参加しているという手応えを感じていたい」「人の温もりを感じていたい」というような、言葉になっていないような感情も含めて持った方もいらっしゃいます。
「ここにいられる」場があるということ。居場所になるということですね。
はい。こういう場を必要としている人が社会にたくさんいるということを確信しました。「もくもくの会」は、おしゃべりの一歩手前。おしゃべりは意外とエネルギーを使いますし、話す場に心地よさを感じない人もいますが、「もくもくの会」は作業という時間がある。
おしゃべりの沈黙の間を埋めるための作業なんですね。
そこでの、ポロポロって出てくる言葉が、私たちが聞こうとしてきた声だったりします。アンケートで拾えていない声があまりにもたくさんある。居場所は、集音器としての機能があるんです。
はい。集音器でもあり、拡声器でもあります。誰も拾っていない、小さな小さな声をちゃんと拾って、多く一般市民の人が聞こえるところまでもっていく。これってすごく大事なことだと思っています。
「つながりデザインプロジェクト」のこれから
最後に「つながりデザインプロジェクトのこれから」について感じていることがあれば教えてください。
これからは「まちの担い手」として、もっと取り組んでいきたいですね。
困っている時に助けてくれる人がまちにいることって、とても心強いですよね。
地域の困りごとを、それぞれの人が「やりたい」ということをベースに、いつのまにか、結果的に解決していたという風になっていけたらと思います。
こまちぷらすは、行政のセンターとは役割も機能も違うんですよね。その中で、どうしたらまちの中で座席ができていくか、模索しているところです。
そうですね。制度ベース、仕組みベースじゃなく、人との関係ベース、個人と個人とのつながりベースといったところで何か起きてくるよう、そこを丁寧にファシリテーション、コーディネーションしていくことが面白そうだなと思いました。
機能のマッチングだけじゃない、つながりとか温もりとかフィーリングとかパーソナルな関係がキーワードになりそうだな、と感じます。うまくつなげることで、いつのまにか関係が深まるかもしれない。個人で意気投合した時に、物事がぐっと進むことがありますから。
ああ…!今、呉さんの言葉ですごく道が開けた感じがします。
こまちぷらすの取り組みは本当に素晴らしいです。ぜひ多くの方に知っていただきたいです。今日はお時間いただいてありがとうございました!
まとめ
「つながりデザインプロジェクト」3年間の経験から語られる森さんの言葉はとても深かったです。
居場所となる「こまちカフェ」はとても居心地が良く、あたたかさや、みんなが大切にしている場所というのが伝わってきました。
こまちカフェの様子
カフェの一角にある手づくり雑貨マルシェ
きび抹茶オレをいただきました。美味しかったです。
この「つながりデザインプロジェクト」について、3年間の最終報告会が2019年3月10日に開催されました!
3年間の取り組みについて詳しくお聞きすることができました。
また「対話」を大事にする こまちぷらすさん らしく、今回の報告会の学びを整理してアウトプットするワークショップもありました。
報告会ならではの苦労話や、裏話も聞くことができ、このような話はなかなか表では聞けない話なので参加できて良かったです。
今回の報告会に行けなかったけど、こまちぷらすさんの話を聞いてみたい!ノウハウを知りたい!と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
こまちぷらすさんは、ビジョン「子育てが『まちの力』で豊かになる社会」をさらに広く実現するために、以下のような取り組みを展開しています。
様々なテーマでの講演
視察受け入れ
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講演/視察/研修
(文章:ひろせめぐみ)