「市民活動や地域活動のような非営利組織の運営は、企業組織の運営よりも難しい」
非営利組織の運営は、独自の難しさがあります。メンバーは多様性がありますし、関わり方や温度も人それぞれです。
しかしながら、地域の課題を解決したり、イベントを開催して活性化をねらったり、地域に根づいてまちをつくっているのは、このような組織・団体だったりします。
活動に参加する人にとっても、出番ができたり、居場所や仲間ができるよね。
私たちCRファクトリーは、非営利組織の運営を「コミュニティ・マネジメント」と呼んでおり、様々な調査・研究からコミュニティ・マネジメントのノウハウを蓄積しています。
そのノウハウを学べる「コミュニティ・マネジメント塾」を、新潟県魚沼市で開催しました!
この塾を通して市民や地域にどんな良い変化があったのか。そしてなぜ今コミュニティ・マネジメントが必要なのか。魚沼市で行政として担当くださった、石本さんと佐藤さんにインタビューをしました!
インタビューでわかったのは、主に以下の3つ。
- まちは小さな活動の集合体
- コミュニティ・マネジメントを学ぶ必要性
- 地域の中で共通言語が持てる心強さ
市民活動・地域活動を丁寧にサポートされていたお二人に、「地域でコミュニティ・マネジメントを学び合う」ことについてお話していただきました!
石本貴之さん
認定NPO法人新潟NPO協会
代表理事・事務局長
佐藤豊さん
新潟県魚沼市役所
商業観光課
インタビュアー呉哲煥
NPO法人CRファクトリー
代表理事
(文章:CRファクトリーひろせめぐみ)
今、活動している団体をサポートする
佐藤さん、石本さん、今日はよろしくおねがいします!
魚沼市では、CRファクトリーのプログラムの「コミュニティ・マネジメント塾」を実施されましたよね。なぜ導入しようと思ったのか、動機を教えてください。
実は、コミュニティ・マネジメント塾の導入の前には、地域の人材を育成するため、別の事業を行っていました。
その時は、地域課題解決のための事業提案プレゼンが中心だったんです。プレゼンはとても良かったのですが、実際にその事業提案プランをもとに、活動を始める人がほとんどいなかった。
プレゼンの後も「このプランは誰が取り組むのだろう?」という壁に当たってしまう。
だから、発想を変えることにしました。実際に今、市民活動や地域活動など、既に活動している人たちをサポートすることにしたんです。
その時、CRファクトリーのコミュニティ・マネジメント塾を導入くださったのですよね。
はい。現在、活動している団体の運営力を高めること、そして、団体同士の磨き合いや連携もねらって導入しました。
POINT
- 事業提案プレゼンだけだと、実際に活動する段階までいかない時がある
- 現在活動している団体をサポートして、運営力を高める支援の方法もある
- 塾を通して学び合うことは、団体同士の磨き合いや連携もねらえる
塾で団体がつながり生まれる価値
団体同士の連携って、実はとても大事ですよね。石本さんから見て、コミュニティ・マネジメント塾の導入はいかかでしたか?
そうですね、以前の事業のように、全く新しいものを生み出そうとするのは、ある種の難しさがありました。
でも、地域に新しい価値を生み出す方法は他にもあって。「他団体や行政と協力して、それぞれの得意分野を活かしながら進めていく」という価値の生み出し方もあります。
協働と連携ですね。コミュニティ・マネジメント塾では、コンテンツを持っている団体と、場を持っている団体がコラボレーションしたこともありましたよね。
はい。「学ぶ」だけでなく、団体同士「深く知り合える」ことができたのが良かったです。
繰り返しのアイスブレイクや対話を重ねることで、深くお互いのことを知ることができました。
いいですね!いろんな活動をしている人が集まり、深く知り合えるからこそ、新たに生まれる価値がある、ということですね。
そうですね。そして実は、コミュニティ・マネジメント塾では、
「すでに活動している人」と「これから活動したい人」もごちゃまぜにしました。
そうすることで、団体が「活動したい人」をごく自然に巻き込めるようになりました。
団体のサポートだけでなく、「これから活動したい人」も活動を始めることができたのですね。
POINT
- 協働と連携で生み出せる価値がある
- 「すでに活動している人」と「これから活動したい人」を一緒にすると、新たに活動したい人もまきこめる
「活動する上で生じる悩み」を解決する
コミュニティ・マネジメント塾を導入するにあたって、苦労したことはありますでしょうか?
「楽しい、やりたい」を起点にした団体やコミュニティのマネジメントを学ぶ。これが、なかなか伝わりづらかったです。
コミュニティ・マネジメントって、すぐに何かが変わるわけではないし、見えづらいんですよね。
そんな中、導入にあたって工夫されたことはありますでしょうか?
そうですね、みんなが感じている「あるある」を伝えたことです。
「活動する上で生じる悩み」です。そして、コミュニティ・マネジメント塾を「これらの課題を克服できる塾です」と打ち出しました。
ホームページやチラシにもこのように書かれていましたね。
<こんな悩みを解決するための講座です!>
・毎回思いつきで事業を実施している
・会議をしても決まらない
・メンバーのやる気にバラつきがあり、活動にメンバーが集まらない
・新しい参加者が増えず、会員数が減っている
・リーダーや特定の人ばかりに負担がかかっている
・担い手が育たず、活動が尻すぼみになっている 等
引用:うおぬまコミュニティ・マネジメント塾2018
これを見て、「そうそう!わかる!」と感じていただくこと、これが一番みなさんに伝わりやすいと感じました。
「あるある」を伝えることで、概念や世界観が伝わることってありますよね。
POINT
- コミュニティ・マネジメントは、すぐに何かが変わるわけではないので見えづらい
- みんなが感じている「あるある」や課題を前面に出すと伝わりやすい
まちは小さな活動の集合体
導入にあたって
コミュニティ・マネジメント塾を通して団体の課題が克服され、団体が発展していくこと。その中で活動している人もイキイキとすることをめざしました。
それが、ひいては地域全体の発展にもつながっていくと感じています。
いいですね。いろんな団体の活動が地域をつくっていく。
地域を支えているのは、こういう人たちの力なんです。そういう意味でいつも思い出すのは、呉さんがおっしゃっている「点描画」の話です。
それぞれの小さな活動も、その点が集まれば大きな素敵な絵(=地域)になる、という話ですね。
それぞれの点が活性化して、大きくなったり、色が濃くなったり、つながったりしていけば、さらに素敵な絵(=地域)になっていく。
みんなで一緒にまちをつくっているんだ、という感覚ですね。
いいですね。これからの時代はますますモノ消費から、コト消費へと移っていく。だから市民活動や地域活動を通じた「体験価値」がさらに求められてくると思います。
自分の役割や出番があって仲間がいて活動があるということ。例えば定年退職した方も含めて、こういうことが必要になってくる。
人の健康や幸福にもつながってくるからこそ、市民活動や地域の活動は大事だと思っています。
はい。だからこそ、コミュニティ・マネジメントは、地域にとっても市民にとっても、これからますます必要になってくると感じているんです。
私たち行政の役割として、小さな活動を丁寧にサポートしていきたい。だから、コミュニティ・マネジメント塾はぴったりだったし、導入して良かったです。
POINT
- まちは小さな活動の集合体である
- 市民活動や地域活動を通じた「体験」はさらに求められてくる
- コミュニティ・マネジメントは、地域にとっても市民にとっても必要になってくる
コミュニティ・マネジメントを学ぶ必要性
コミュニティ・マネジメント塾を実施してみて良かったこと、具体的にはどんなことがありますでしょうか?
コミュニティ・マネジメントって、そもそも可視化できないものだと思っていました。でも、塾では言語化されていて、モヤモヤがスッキリしましたね。
とても印象的だったのは、はじめに「市民活動や地域活動のような非営利組織の運営は、企業組織の運営よりも難しい」という話があったことです。
そうなんですよね。地域活動やNPO団体のメンバーは多様性があるし、関わり方や温度も違う。コミュニティ・マネジメントは、そもそも難易度が高いんです。
はい。「自分たちは難しいことに取り組んでいるんだ」ということに気づかさせてもらいましたし、あらためて団体運営を学ぶ大切さを知りました。
こういう前提って、誰かにあらためて言ってもらわないとわからなかったりしますよね。
それがみんなわかったっていうのは、絶対に大きいです。
コミュニティ・マネジメントならではの運営ってやっぱりありますよね。
本当にそうです。そのひとつで、たとえば「
お金以外の報酬を意識する」などは、すごくストンと来ました。
「コミュニティ・マネジメントを学ぶ」とは、こういうことだったのかとわかりました。
ちなみに、2018年のコミュニティ・マネジメント塾では、このようなプログラムで実施いただきました。
- 参加者同士の自己紹介
- コミュニティ・マネジメント基礎
- 新たな仲間の巻き込み方
- 会議を効果的にマネジメントする
- みんなで活動計画を立案する
- 成果報告会
コミュニティ・マネジメントが大事だとわかったその先に、「じゃあどうするか」という具体的な方法論を、私たちがお伝えできればと思っています。
POINT
- 市民活動や地域活動のような非営利組織の運営は、企業組織の運営よりも難しい
- 難易度が高い分、運営に関する具体的な方法を学ぶことが大切
共通言語が持てる心強さ
石本さんはコミュニティ・マネジメント塾を導入して良かったと感じていることはありますか?
そうですね、「学び合える場」があることで、地域の中で他団体と話せる機会となったことですね。
同じ学びを経ているので、
他団体同士であっても共通言語ができたのが良かったんですよ。
「雪かきと言えば、スコップ」みたいな感じで(笑)。「団体の運営を話すなら、ドリームミーティング」のように、悩みも解決方法も共通のワードがあれば話しやすいです。
そうですね!そういえば、そういうことを話す機会にと、塾生同士で飲み会もされていましたよね。
はい。メンバーが主催した飲み会もありました!
いろんな方が集まっていて、中には、当時88歳の方もいらしていましたね。その方は「コミュニティ・マネジメントは今、地域に必要だ」という手紙を市長に書いてくださった熱い方でした。
それは嬉しいです!そして、塾生同士でいい刺激が得られるのも、学びの場の醍醐味ですよね。
そうですね。あとは、団体の中でもコミュニティ・マネジメントについて共通言語ができたらと考え、できるだけ2名以上の参加を推奨しました。
「学んで終わりにしない」っていうのはすごく大事なこと。2名以上参加してもらうと、団体内でも話す機会になり学びが浸透しやすくなりました。
そのような運営の工夫が、コミュニティ・マネジメント塾をより価値のあるものにしたのだと思います。
石本さんは、塾を欠席した方のために議事録を作成したりされていましたよね。
はい。どうしても全部参加できない方がいらっしゃるので、議事録を作成して、学びの差が出ないようにしました。
「共通言語」の大事さを知っている石本さんと佐藤さんだから、丁寧にサポートされていましたよね。
そうですね。あとは、これは呉さんから教えていただいたことでしたが、まめに参加者に声をかけることを心がけました。「前回からどうですか?」とか。
参加者とスタッフと、しっかりコミュニケーションとることは、安心して参加するためにも大事なことです。
加えて、CRファクトリーに来てもらって、地域の外の視点から改めて学べることは特別感がありました。
そして、ともに学んだことを通じて「市民」対「行政」ではなく「みんなで一緒にまちを良くしていくんだ」とお互いに寄り添えるきっかけとなりました。
コミュニティ・マネジメントを学んだことで、市民と行政の関係もより近くなったということでしょうか。
はい。だから、コミュニティ・マネジメントを学ぶなら、少しでも早いほうがいいと思っています。
コミュニティ・マネジメント塾は、単にノウハウを学ぶだけではなく、地域の中に共通言語ができる心強さや、団体の連携が生まれていくことなど、まち全体にも広がっていくものだと感じています。
CRファクトリーがまちを良くしていくための一助となれば嬉しいです。今日はお時間いただいてありがとうございました!
POINT
- 同じ学びを経ると、団体内でも団体同士でも共通言語ができる
- 悩みも解決方法も共通言語があれば話しやすい
- ともに学んだことを通じて、市民と行政で一緒にまちを良くしていく意識が生まれる
まとめ
今回のインタビューでは「コミュニティ・マネジメントは、これからますます必要になってくる」という話がとても印象的でした。
また、コミュニティ・マネジメント塾を地域に導入することは、ノウハウを学ぶだけではなく、団体同士の連携から生まれる価値や、共通言語がある心強さもあるのだと知ることができました。
「まちは小さな活動の集合体」。だからこそ、小さい活動を丁寧にサポートする。それが、みんなで一緒に良いまちをつくることにつながるのだと感じます。
CRファクトリーでは、コミュニティ・マネジメント塾をはじめ、全国各地の行政・中間支援組織と協働・連携して以下の事業を行っています。
- コミュニティ・マネジメント塾
- オンライン・コミュニティ塾(E-learningプログラム)
- コミュニティ・エンパワメント・ラボ(相互研鑽プログラム)
- コミュニティキャピタル診断(組織診断ツール)
- セミナー・研修
- 地域コーディネーター育成事業
様々な調査・研究から蓄積されたコミュニティ・マネジメントのノウハウを、惜しみなくお伝えしています。詳しくはこちらのページをごらんください。
行政・中間支援組織の方へ
編集後記
CRファクトリーライターのひろせめぐみです。今回のインタビューは、CRファクトリー代表の呉と私で新潟県魚沼市へ伺いました。
インタビューが始まる前にいただいたのは、魚沼の夏野菜!新鮮でとっても美味しかったです。
またインタビュー後は、石本さん、佐藤さん、呉と、もつ焼きを食べに行きました。こちらも、ほっぺがとろけるほど美味しかったです!
私にとって、魚沼は「グルメのまち」になりました。
インタビューはとても和やかに、だけど記事本文のように深い話をお聞きすることができました。
限られた時間でしたが、私自身も学びが多いとても有意義な時間でした。ありがとうございました!
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