コラム「一番影響を受けたと思う教育者は誰ですか?」

「一番影響を受けたと思う教育者は誰ですか?」
これは、CRファクトリーが直営するコミュニティ「DCT交流勉強会」での
ある日のグループワークの一コマで設定された問い(テーマ)でした。

はて、誰だろうか。
両親?
親友?
初恋の人?
高校時代の恩師?
CRファクトリー代表の呉哲煥?
出会いがターニングポイントとなったとある脚本家?

短い時間の中でも熟考した結果、
僕に最も影響を与えた教育者は「塾の先生」だとわかりました。


NPO法人CRファクトリー

小学校高学年の頃、僕は中学受験で良い結果を出すために
週の多くの時間を勉強に充てていました(遊んでもいましたけどね)。
最初に通っていた受験塾では、うまく成績が伸びませんでした。
友人関係に苦しみ、塾生間の競争に負け、勉強が嫌いになりそうな日々。
両親にそのつらさを打ち明けて、通う塾を変えることに。

二番目の塾で出会ったのが、ミエコ先生でした。
ミエコ先生は塾長でもあり、当時もう50才前後でしたが、
とにかくパワフルで美しい人でした。
子どもたちのお喋りを掻き消すボリュームの声、
怒る時は力いっぱい机を叩く、
手抜きやズルをした生徒には容赦なくビンタ、
楽しいときは誰よりも大きく笑う。

子どもの頃からヒネた性格だった僕は、はじめは斜に構え、
「ここは塾なんだから、成績が良ければいいんでしょ?」
なんてことを言動の端々に漂わせる嫌なガキでした。
前の塾での失敗体験が尾を引いてもいたのだとは思いますが。

そんな僕を、ミエコ先生は真正面から叩き直しました。

点数という表面にだまされず過程を見つめ、
塾長と塾生・先生と生徒という関係を超えて個人に切り込む。
「勉強」じゃなくて今は「お前自身」の話をしてるんだよ!という具合に。

ミエコ先生の熱量が12才の僕を変えるのに、
そう時間はかかりませんでした。
先生の示すハードルを超えたい、
親や周囲の期待に応えたい、
友人と切磋琢磨(競争)するのが楽しい、
ひとりの力じゃない、ここだからこそ成果が出るんだ、と。
心境の変化は、成績という結果にも明確に表れました。

そして僕にとって、
ひとつのテーマ(この時は受験)を起点とした
コミュニティの原体験のひとつでもありました。
「何」をやるかと同等に、「誰」と、「どう」やるかが
人にとって大事であるということを示してくれた体験です。

ミエコ先生が僕に教えてくれたのは、
勉強の上手なやり方や問題の効率的な解き方だけではなく、
生きるために大事な「学びの姿勢」だったのでしょう。

自分自身と、目の前のことと、周囲の人たちと、どう向き合うか。
いま何をするのかではなく、これからどこに行きたいのか。
やるべきことの向こうにある、大切なことは何なのか。

そういうことを常に考える力は、
どんなスキルや知識よりも深く、
今でも僕の中に息づいています。

コミュニティという場では、
共通したテーマ(目的)を起点として人が集まり、
互いに影響を与え合います。

願わくばそれが表面的な事柄だけではなく、
深いところで響き合えるようでありたい。
そんなコミュニティを世に増やしたい。

ひとつのグループワークできっかけを得た思考から、
改めてそんな想いを強くすることになったのでした。


(コンサルタント 五井渕 利明)

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